2014年9月9日火曜日

終電で帰るってば

前回に引き続いて高校生のころの話をちょっとだけ。

いくら落ちこぼれとはいえヤンキーじゃなかったから、どれだけ遅くなっても終電で帰っていた。田舎なこともあって終電はこの時間、友達の落ちこぼれどもが一番楽しんでいる時間帯に抜けるわけだ。そうして終電で帰っていると、いつも必ずめぐり合う人たちがいた。
一人目は、スポーツ刈りのおじさん。いつもジャージで、ポケットには小銭をジャラジャラ持っている。本当に小銭をかき回す音がすごくて、少なく見積もってもたぶん30枚そこらは入っている。でもたまに財布を取り出すから、財布を持っていないわけではないらしい。
そして、いつも茶色のティアドロップのサングラスをかけた、背が低めのおじいさん。この人はいつも同じスーツを着ている。そうしておとなしく電車に乗っているだけだ。俺とこの人は降りる駅が一緒だけど、この前電車を降りて跨線橋に向かっていると、このおじさんが電車のなかでキョロキョロしているのを見た。多分寝過ごしたのだろう。
この人はとにかくよく見かける。その分思い入れも深い。何故かはわからないが、とにかく電車がかぶることが多い。無論ここは東京とは違って、俺の最寄りまでいく電車はだいたい15分に一本あればいい方なので、必然的にかぶることも多くなって仕方ないけど。
高校生になる前、つまり天神で生活の大部分を過ごすようになる前からたまに電車では見かけていたので、よっぽどのベテランだ。でも、サラリーマンではなさそうだ。どうしてかって、俺はこれまでただの一度もこのおじさんが荷物を持っているところを見たことがないからだ。

いや、一度だけあった。それはいつかの年のクリスマスのことで、福岡駅のケーキ屋さんの箱を持ったこのおっちゃんを見かけた。これだけはよく覚えている。だれと食べるのかはわからないけど、それでもともかくケーキを食べられるクリスマスを送っていることだけは確かだ。何でかはわからないが、とにかくそれで俺はなんだか安心してしまったのを覚えている。

どうして急にこんなことを書いているかというと、それは無論俺が今大牟田行きの終電に乗っていて、そうして小銭のおじさんが横で相変わらず小銭をジャラジャラさせているからだ。

こうして大学生になって福岡を離れ、それでも俺が福岡にいないことなんて関係なしに今までどおりの生活を続けている人を見ると、安心する。それが当たり前のことだと分かってはいるけど。

いつかずっと先にこのおじさんたちと写真を撮るのが夢だ。でもそれは多分無理だ。そんなことはわかっている。だからとりあえずは、向こうも俺のことを「こいつよく見るな……」くらい思っておいてほしいとは思う。次に帰省した時もまた会えると嬉しい。家族と友達と彼女以外でこんなことを思うのはたぶんこのおじさんたちだけだろう。